本日はいつもと趣向を変えて、出版業界のお話をお届けしましょう。
じつは数年ほど前、ニューヨークに本社を構えるアメリカの大手出版社「P社」の編集局長にお会いし、1時間ほどインタビューさせて頂いたことがありました。本日はその時のメモをベースにアメリカの雑誌業界における「収益構造」をお届けします。
本題に入る前にインタビュー自体は5年ほど前であるということをご理解ください。よって2010年の現状とはまったく異なる可能性があります。
また、インタビューに応えてくれたH氏は自動車雑誌部門の編集局長で、IT企業の営業職からヘッドハンティングされてP社へ移籍した方。つまり編集経験はゼロですが、「雑誌もひとつの商品に過ぎないから、ビジネスとして展開する上で、編集の経験はさほど必要だと思わない」とおっしゃられていました。
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P社は北米で売上・規模共にトップクラスを誇った大手出版社。しかしながらその歴史は浅く、複数の投資ファンドが出資する形で1980年代に創業したベンチャー企業です。
同社は1990年代から小規模な出版社や雑誌タイトルを買収し、一時はアメリカのメジャーな自動車雑誌の大半を保有するほどの勢いに成長。
アメリカの自動車好きなら誰でも知っている様な有名雑誌を相次いで傘下に取り込み、特にモーター誌と呼ばれる自動車雑誌に関しては、ほとんどを集約していました。
H氏によれば当時同社が保有する雑誌タイトルは450誌、内モーター誌が60誌。この中には120万部を誇るアメリカ・トップクラスの自動車雑誌M誌も含まれていました。
当時の社員数は出版事業だけで約5000人。モーター誌における年間売上は約3億ドル(当時のレートで約360億円)とのこと。
ちなみにアメリカの出版流通は日本と似ており、出版社→取次ぎ(ディストリビューター)→書店(ニューススタンド)という流れで、取次ぎが得るマージンは雑誌売価の約30%。これにニューススタンドのマージンが同じく30%前後かかり、出版社の利益は定価の35-40%程度となります。
しかしながら、これではなかなか儲かりませんよね。
じつは、アメリカの出版社は基本的に雑誌を販売した売上で利益を生み出すのではなく、広告の売上で利益を稼ぐ「広告モデル」が中心なのです。
当時アメリカにおける雑誌の平均実売率は35%!! 驚くべき低水準ですが、この数字はあくまでもニューススタンドにおける実売率、つまり書店やコンビニで販売した雑誌の実売率なのです。
このためどの雑誌もほとんどが書店売り(ニューススタンド)の他に定期購読を展開しており、部数的にはこちらの定期購読の方がはるかに多いのです。
例えばM誌の場合、発行部数120万部の内ニューススタンドが20万部に対し、定期購読が100万部という構成です。
「な~んだ100万部も売れていれば、広告だけじゃなく、定期購読の収入だけでも十分儲かるじゃん!!」。
ところが、ここに大きな落とし穴が......。
定期購読は確かに部数的には大きいのですが、①未回収が非常に多い。②割引率が大きい(1冊5ドルの雑誌が、定期購読の場合1年間12冊で9ドル程度というのが標準的な価格体系)。③配送コストがかかる。上記3つの理由から、定期購読の利益率は決して良くないのです。
この様にニューススタンドでの実売率も悪く、定期購読でも利益があがらないため、出版社は雑誌の印刷代や用紙代などの製作コストにシビアにならざるを得ません。このため、雑誌の品質自体は、日本の雑誌媒体と比べて極端に落ちるのです。
アメリカの自動車雑誌の大半がペラペラの紙に印刷されているのは、こんな裏事情があるんですね。
さて、この様にアメリカの出版社は雑誌の販売では利益を生み出すことが難しいため、利益の大半を広告収入に頼っています。
例えば平均的なモーター誌(発行部数10~20万部)の場合、1ページあたりの広告単価は$5,000(当時のレートで約60万円)。
H氏によれば彼の担当雑誌の場合1号あたり220ページ程度の広告ページが必要になるとのことでしたから、単純計算で1号あたりの広告収入は110万ドル(約1億3200万円)に上ります。
日本の雑誌だと、これだけの広告売上を稼ぐのは一般誌じゃない限り難しいですね。
この様に利益率の悪い雑誌でも、定期購読者数を増やして発行部数を大きくし、広告の価値を上げると同時に広告売上を伸ばしていくというのがアメリカにおける一般的な雑誌の設計手法なのです。
また、出版社はイベントや版権の販売も積極的に行っており、H氏の担当媒体では1誌あたり年間平均20回のイベントを開催し、イベントの収益も相当な額に上るとのことでした。
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インタービューした当時と現在では取り巻く状況がまったく異なります。
事実、P社は2007年にモーター誌などの雑誌部門を売却。現在では住宅関連の雑誌販売に絞って事業を継続していますが、インタビュー当時とは会社の規模はずいぶんと変わったかの様に見受けられます。
なんといっても金融危機に端を発した100年に一度の大不況下ですから、広告モデル型の出版事業がその後も順調に成長しているかどうかは、容易に察することが出来るでしょう。
ということで、日米共に非常に厳しい出版業界ですが、個人的には初日に12万台を売り上げたというi padに大いに注目し、雑誌の電子配信に期待を寄せる今日この頃です。



